仕掛け人 (前)

 

 

今日で一週間。

もしかしたら来るかもしれない。
だからすぐに温められるように、まだ目玉焼きはフライパンの上。
焼き加減はリンの好きな固焼き一歩手前。

「今日も来ない、か…」

小さな皿の上にトーストとフルーツ、それにカリカリベーコン。
共に置かれた目玉焼きは、ラップを掛けられそのまま机の上に留まった。
初日ほど後ろ髪は引かれない。
ただ、来ない?もしくは来れない理由が知りたかった。

「さてと」

立ち上がったところで、何か動くものが視界に入ってきた気がした。
リン以外にこの時間に起きている家族は多分いない。
急いで視界の端で揺れるものを追う。翻った影はやはり僅かに茶味を帯びた黄色。

「リンちゃん」
「あ、あ、あ、あ、あ…」

目が合うと、リンは慌てた様子で顔をそらせた。
「ご飯、用意できてるよ?」
「い、いい…」
リンが小さく首を振るとおなかがぐぅと鳴る。
「何で?おなか減ってるんじゃない」
リンはまたふるふると首を振った。何を聞いてもそれで埒が明かない。
「……リンちゃん」
「……………」
僕、何かしたっけ?、考えてみるが考えるほどわからない。
思いついたのはただ、ただ──

 

「ごめん、食べたくなかったら気を使わなくても良いよ?」

 

「あ、にい」
「じゃ、行ってくるから」

 

リンは何か言おうとしていたけど、聞こえないふりをした。
例え、それがリンの本心じゃないとしても、今は聞きたくなかった。

 

* * *

 


カイトの後姿を最後まで追えず、リンは狭い家を全力疾走でミクの部屋に向かった。
ばたばたばた。と乾いた足音が響く。
勢いよく開けたミクの部屋の扉も相当な音を立てた。

「どーしよう、ミクちゃん!にいにがっ、にいにがっ」
「ん…あと150分……」
リンにがくがくと上半身を揺らされてもはやそれどころではない。
それでもミクはなかなか起きようとはしない。気配すらない。

初めてあんなに寂しそうな顔を見た。
ただ、それだけなのに、胸が苦しくて、じっとしていることが出来なくて。
「ミクちゃん!!あたし…」
「うん、私だってそん………じゃあ、あと340分…」
「肝心なところが聞こえないよ!ミクちゃんってば!!」
そのままミクは寝息を立て、リンの必死の呼びかけにも微動だにしなかった。

 

 

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