「ねぇ、にいに、キスしたことある?」

 

くるっと振り向いたリンに僕はいつもの様にやんわりと微笑んで、それから、吃驚した。
「な、な…急に……」
「にいにはあたしより起動時間長いからあるのかなーって」
何故僕の頬が熱くなるんだろう。

 

いつもテレビを見るときは僕の膝の上がリンの特等席。
誤魔化すように目を泳がせる。

「ふーん。そっか、ないんだ」
「リンちゃんはあるの?」
「ねぇ、ファーストキスはレモン味って本当?」

聞いちゃいない。リンの頭の中はきっとレモン味で持ちきりなんだろう。
誰に入れ知恵されたんだろう?ミクかマスターしかいないけど。

「ねー、リンとしようよー?」

にっこりと笑ったリンに不覚にもどきりとする。
とりあえず、頭の中を整理しよう……うん、オーバーヒート。
改めてもう一度。リンが僕とキス。ありえないシチュエーションすぎる。

 

「ねーにいに?」
「…うーん、リンちゃんのいつか出来る大切な人にとっておいてあげなよ」

ぽんぽん、と頭をなでてやると、リンはくすぐったそうに身じろいだ。
もっと!と言わんばかりに頭を擦りつけてくるから、顔を掠める髪がくすぐったい。
これで忘れてくれれば…と淡い期待をしつつ、これでもか、とリンを撫で回す。
満足した表情のリンはふーっと息をはいた。

「誤魔化されないよ?リン、にいにの事大事だもん!ねー!キスした……ふぐっ!!」
僕はあわててリンの口をふさぐ…もちろん手で、だ。
ミクにこんな台詞聞かれたらある事ない事吹聴されるに決まっている。
いやいや、ミクじゃなくたってまずい。
もう気が済んだとばかり思っていたのに…

「ね、ちょっと触るだけでいいからお願いっっ」

僕の気なんて露知らずのリンは胸の前でぱんっ、と手を合わせてからぎゅっと目を閉じた。
「……うっ」
こうなってしまうと、分が悪い。
上手く断らないとリンの機嫌を損ねるし、やったらやったで…難しい問題だ。
漫画なんかだとここでピンポーンとかチャイムが鳴って…惜しい、ってなるのに何故かそれを願わずにはいられない。
視線を戻すと、しぶとく大きな瞳を閉じたままのリンが今か今かとその時を待っていた。
そろそろ観念しようか…心臓が大きな音を立てる。

 

別に嫌なわけじゃない。
ただ、僕には勿体ないなって思っただけ。

 

頬に手を伸ばすと細い肩がびくっと震えた。
「リン」
呼んでも返事はない。
硬直したその小さな身体はおびえてるようにすら感じた。

 

「……ほら、無理してるでしょ」

「ふぇっ…」
軽く指先でおでこを弾くと、リンは安心したのか、何とも間の抜けな声を出した。

「これじゃ僕が無理やりしたみたいじゃない」
「ごめんなさい…やっぱり怖くって…」

それから僕の胸にぎゅっと抱きついてきた。
僕もその背中にそっと腕を回す。
リンは背伸びしたい年頃、と言うやつなんだろう。
どうやら難を逃れたらしい僕は気付かれないように小さくため息をついた。

口先ではまた今度ね、なんて囁きながら。

 

 

恋人一歩手前のふたり。超久しぶりに話が湧いてきた…いつも内容一緒じゃんとか言っちゃだめ。
なれそめ編は途中で私の考えが変わったため大苦戦している……もうヤメテイイデスカ?
あと、この話の挿絵を、挿絵を絶対コタツが出てるうちに描くんだ…

 

 

 

 

「あっ、大変、リンちゃんがお兄ちゃんに襲われてる!!」
急にそんな声がしてあわてて振り向くと買い物帰りと思われるミクがどさっとその手の荷物を落とした。
とてもわざとらしく。
「ちょっ、ミク……」
「マスターマスター!!ロリコンがっ!変態がっっ!!!」

 

 

 

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