おむかえ

 

月にいちど。今月の街角レポートまとめ、と称してスタジオでの収録がある。
この他にも突発的に行くことはあるけど、これだけは月の平日の末日と決まっている。

「おつかれさまでした〜」

カイトは荷物をまとめると、スタジオを後にした。
今日の夕飯は何にしようか、シャンプーそろそろ買わなきゃ、など収録が終われば考えるのは家の事ばかりだ。
さっき、パーソナリティの女の子に趣味とかないと辛くない?と聞かれた。

「趣味ねぇ…」

新作アイスの食べ比べとか?そういうのは趣味とは言わないのだろうか。
でも、生活に不満があるわけでも…しいて言うなら、ミクがもうちょっと…

慣れた夕暮れ時を家に向け一人歩く。
もう随分と風が冷たい季節になった。

 

「ん?」

夕方の暖かいオレンジ色とは対称的な冷たい風にまぎれて聞こえた声がした。
「にいに、こっちこっちー!!」
ふと顔を上げると、強い西日が目に入り、カイトは思わず手で目元に影を作る。
するとオレンジの道の向こうでリンがぴょんぴょん跳ねて、頭の上まであげた手を大きく振っているのが見えた。
すぐ隣にはミクとレンも居る。
「おーい!」
嬉しくて思わず急ぎ足になると、リンもつられるようにカイトに駆け寄った。

「どうしたの?」
リンに目線を合わせるように少しだけ膝を折り曲げる。
軽く頭を撫でるとリンはくすぐったそうに笑った。
「ミクちゃんに連れてきてもらったのー」
「リンちゃんがどうしても来たいって言うから…」
後ろからようやく追いついたミクが何故か弁解をいれる。
「にいにの声、ラジオで聞いてたら早く会いたいなって思ったの」
「そっか、嬉しいなぁ」
心の中にほんのり明かりが点ったかのように暖かくなる。
レンはこちらをちらちら見ているものの、話には加わってこない。
カイトの口元が緩むとミクはぷいっとそっぽを向いた。

実はこんなテレビのようなほのぼの家族に憧れていた。
ミクが来たときも、うんと可愛がってやろう、と意気込んでいたのを思い出した。
こういうのは相手の考え方もとても重要だ。
ミクはご覧の通り、スキンシップなんて全くしたがらない。
カイトが考えているようなことは勿論させてもらえなかった。
とはいっても別に仲が悪いわけでないのだが。

だから今、頭を撫でられてきゃっきゃと喜んでいるリンの姿が嬉しくてたまらなかった。

 

 

「ね、夕ご飯なに?」

夕日と同じほうに歩き出すと、やっぱり出て来たのは夕ご飯の話題だった。
「うーん、考えてるとこ…何がいい?」
「葱買って」
ミクがすかさずそう言った。
そういえば、この間のすき焼きで葱が切れて昨日も何だか元気がなかった。
「じゃあ今日はみんなの好きなものでお鍋にしようか?リンちゃんとレン君は?」
「みかん!!」
「…バナナ」

「まるで闇鍋のようだねぇ」

──結局、葱のおかずと後はスーパーで考えて、バナナとみかんはデザートにすることにした。
もちろん、アイスも忘れずに買おう。

 

* * *

 

カイトにとって嬉しいことがもうひとつあった。

レンが3つになった買い物袋をひとつ持ってくれたのだ。
やっぱり家族っていいな、と思う。
「リンもお手伝いするー!」
「んー重たいから、危ないよ」
そんなことお構いなしに、リンは両手が袋でふさがったカイトの袖をひっぱる。
「リンにはムリだって」
「レンもするならリンもやーりーたーいー」
荷物持ちがそんなにしたいのかは疑問だけど、やっぱり双子のレンに遅れをとりたくないのだろう。レンが悪たれるもんだから、ますますむきになっている。

「じゃ、いっこの半分持ってもらおうかな?ほら、手繋ごう」

カイトが袋を持った手を差し出すとリンはぷぅ、と頬を膨らめた。
「むーひとりで出来るのに」
「まあまあ」
そう言いながらも、程なくカイトの手を握る。
カイトよりひとまわり小さなその手は随分暖かい気がする。
歩き始めると、リンに負担にならないように歩幅に気をつけた。
もう5分もすれば家に着く。

「リンには、帰ったらお料理、手伝ってもらおうかな」
まだむくれているリンに声をかけてみた。
その言葉にリンはぴくりと反応する。
ひとりで出来るようになってくれたら助かるなぁ、とも言ってみる。

「やるっ」

リンはピシッとやる気満々で手を上げた。
ころころと変わる表情はとても可愛いし、仕草も見ていて飽きない。
カイトはそんな可愛い妹に顔が緩みっぱなしだ。
それを見つけたミクの目がすかさず光る。

「やだ〜リンちゃん。お兄ちゃんのこと誘惑してるの?」
「なっ、ちょっ、み、ミクっ」

へ?と首をかしげてあっけらかんとしているリンの隣でミクがニヤニヤしている。
動揺しているのは自分だけのようだ。急に心拍数が上がって汗が吹き出てきた。

その後のことは良く覚えていない。
次に記憶があるのは、玄関を開けたところで突っかかったところだ。
見たいテレビがあると言って少し前に手を放したリンに怪我がなかったのが幸いだった。

 

「大丈夫、カイ兄?」
いつもこんなんなの?と、何故かレンに心配された。

 

ほのぼのボカロ家になってくれるといいです。リンの精神年齢が何か低いですネw
↓↓に途中で書くの止めた夕食準備編

 

「あ…ごめん、にいに」
「大丈夫、だんだん上手くなってくれればいいから、はは…」

今日3度目のがちゃん、という音がした。
帰ったら早速リンに夕ご飯作りを手伝ってもらったのだが、予想に反して凄い。

「今日はもういいから、また一緒にやろう?」
「リンは本当に不器用だなぁ」
「もー何で?レンには出来るのに…」

ミクはここでもニヤニヤしながら見ていた。

 

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