カイリンのお題 1.わがまま
「ざあざあざあ」
「あめ、やまないね」
零れた独り言を受け取る人はいない。
昨日から降り続く雨。
ミクもレンもカイトも、そしてリンも。
なんとなく同じ部屋にいるものの、ゲームもテレビも飽きてしまってうだうだしているだけ。
いつもは心地のいい4人だけれど、こう雨が続くと次第に気分も沈むと言うもの。「あ、肉まん食べたいかも」
ポツリと呟いたリンに視線が集まる。
「リン、買ってきてくれんの?」
「やだ。レンが行ってよ」
「リンが言いだしっぺだろ?」
「あーもーリンちゃんの所為で何かお腹減った」ミクはガシガシと頭を掻いてから近くに居たレンを一度小突いた。
冷蔵庫にはすぐ食べられるものと葱はもうなくて。
とは言っても人間ではないので人間のそれのようになるわけではない。
ただ、いらいらするのは同じのよう。
「…小降りになってきたし、僕、ちょっと行ってくるよ」
「流石、偽善の星」
「ミク、そんな言葉どこで覚えてきたの?」
別に、とつれない様子のミクは、顔をそらした所でにやりと笑みを浮かべた。
久しぶりに動かした手足が少し重い。
よっこいしょ、で立ち上がる。
「あ、リンも行く」
その後ろをパタパタついていくリンにレンはぼそりと呟く。「さっきはやだって言ってた癖に」
「もーうるさいなー」
「ざあざあ」
玄関を開けるとやっぱり土砂降り。傘を差すとガラス越しでない分、当然リアルで。
風が吹くと頬に水玉がぽつりぽつりと当たる。
「うーん、リンは家で待ってなよ、風邪引いちゃうよ」
「いいの、肉まん、食べたいし……」「そっか」
この間買ってきたときは皮が何か嫌いと言って中身しか食べなかったくせに。
そんなことを思い出しながらカイトが傘を開くと、コートの裾を小さなリンの手が引いた。
いつもの合図。
「手、繋ぐと濡れちゃうって」
「だって…」
しゅんと俯いたリボンに雨粒がひとつ、しみ込んでいった。
雨+リン=濡れない方法。それは。
「じゃ、ちょっと遠くのコンビにまで」
そう言ってすっと、リンの肩を抱き寄せる。
「くっついていけば、ひとつの傘で平気かな?」
リンは特に何も言わなかったけれど、その小さな身体は温かくて、可愛くて。
濡れるよ、なんて言い訳しながらその熱を乾かしきれずにいた。
カイリン的わがまま、それはリンたんの無謀なお願いを兄さんがいやみも言わずに叶えてしまう、そんなバカップルなふたり。