4.好きすぎて困る
「見たよーリンちゃんー?」
そう言った声はどこか浮ついて、いかにも野次馬根性丸出し、という感じだった。
「え、何を……?」
「とぼけたって駄目。お兄ちゃんとちゅーしてるとこ見たよ」
少し前に時間を戻そう。
あたしは柄にもなく黄昏を纏わせつつ、窓から外を眺めていた。
別にお互い気持ちを言い合ったわけじゃない。
ただ、あたしが抱っこしてってねだって、兄(にぃ)が抱きしめてくれた。
兄に抱きしめられて、あたしはそれに体を寄せた。それだけ。「えーしてない!!してない!!!絶対してないっっ」
本当にびっくりした。だって、それは今あたしがしてた妄想だもん。
したい、したいけど…告白もまだだし。「ほんとー?でもぎゅーってしてもらってたよね」
「……」
目をそらすとミクちゃんはにやついた顔であたしを覗き込んだ。
誤魔化しきれない、そう思ってミクちゃんにはありのままを話した。「そっかーでもそれって絶対両想いじゃない?」
「ホント?あたしから言ってもいいかな…」
「それはだめよ、お兄ちゃんから言ってもらわないと」
「うー……言ってくれるかな?」
「大丈夫、あたしに任せてよ」
「へっ?」そう言ってミクちゃんはくるっと後ろを向いた。
「だってーお兄ちゃん、そこで聞いてるんでしょ?」
「み、ミクちゃんっ」
「なーんちゃって☆やだーリンちゃん、顔真っ赤だよ」
けたけた笑うミクちゃんに視線を向けることすら出来なかった。
ミクちゃんがいなくなった部屋は妙にシーンとしている。
両想いじゃない?、という言葉を思い出すと妙に恥ずかしくて顔が熱くなる。
もしそうだったら…毎日、飽きるで抱きしめてもらって、撫でてもらって、「はひっっ」
あたしがこんなに肩を震わせて、こんな声を出したのは紛れもない。
ドアをノックされたからだ。
勿論と言うべきか。返事をすると入ってきたのは兄だった。「どうしたの、リン?顔真っ赤だよ?」
「兄っ…」多分、あたしは不自然に顔をそらせたと思う。
なんで?タイミング良過ぎるでしょ。
なにこれ、息が詰まりそう…「べ、別に何でも……」
「熱でもあるんじゃない?」
兄が右手で前髪を掻き分けて、あたしのおでこに、自分のおでこをくっつけた。
そんな漫画みたいなワンシーンに呆れもせず、ただドキドキを抑えようと必死だった。
「にぃっ……」
「うーん、熱あるかな、何か脈も少し速いし」
左手はわたしの右手首を押さえる。
「ね、リン… 」
「え?」
はっとその顔を見上げると、兄はほんのり赤い頬をしていた。
「もう一回しか言わないよ」
おなかと背中に温かいもの。聞こえるのはダイスキな声とその鼓動。
「…なんて」
「どうしたの、リン?何だか楽しそうだね」「んーなんでもない」
「なになに、教えてよー」兄には教えてあげない。
別に兄も知っていることだから秘密なわけじゃない。
私が何度もこのワンシーンを思い出してるのは秘密だけど。誤魔化すように、もっといっぱいぎゅってして、っておねだりした。
あのときの言葉を思い出すとどうにも歯の裏がくすぐったい。
足の先から髪の毛1本まで全部幸せ。
どうしよう。
妄想も現実もあなたなしではいられないの。
ダイスキなワンシーンを思い出してにやける…というシチュ。