好きのお題 3.ただ好きなだけ
「ね、兄(にぃ)。あたしに何か言いたいことないの?」
この間、リンとふたりでアイス屋に行ったときからだ。
リンは何かにつけて僕にそう尋ねてきた。
膝の上に向き合うように座ったリンは不自然なほど距離が近く、薄くシャンプーの匂いまで届く。
甘い香りを吸い込むほどに脳が支配されそうだ。「今度こそアイス食べたいね。明日は開店に合せて行ってみる?」
「………うん」瞳が揺れる。
答えがあっていないことは目を見る前から明らかだった。
表情こそ変わらないが、声の周波数がいつもより少し低く、振幅が定まっていない。
僕が浮かれ気味な所為もあり、いつも以上にそんな些細なところが気になってしまう。
必要以上に覗き込んでいると、あんまり見ないで、と一蹴された。「じゃあ、明日、ね?」
リンの頭をぽんぽんと撫でて、細い小指と指切りした。
ちょっと前はこんな風に意味もなく触れると憎まれ口の1つも言われたものだ。
だから余計にしなくてもいい期待をしてしまう。
「…ヒント、くれないかな。頭文字とか」
突然の申し出に、リンは予想通り怪訝そうな顔をした。
「なんで」
「ごめん、僕鈍いから分からなくて」
目が合うより先にその口からは壮大なため息が漏れる。
手を合せてもう一度お願いすると、微かに結ばれた唇が動いた。「こ」
「こ?」
はき捨てるように小さく流れた言葉を慌てて繰り返す。
何故ならそれは、描いていたものとあまりに一致しすぎていたから。「こ……コラボとか?」
「近いような遠いような…」
自分の勘違いだと思いたかった。
確かについ最近までは何の下心もない感情だった。「もぉいい…」
リンは諦めたようにため息をついて僕に寄りかかる。
それからぶっきらぼうに言った。「何か眠い!兄、枕になって」
「リン…?」
「うるさいっ、寝れないじゃない」僕の声を遮るように、リンは耳を塞いで目を閉じた。
まだ言えない。
ただ、細い髪を指で絡めるだけで幸せな気持ちになれる。「あ、それ、なんかきもちい──」
「そう?」
穏やかなその表情、それをいつまでも見ていたくて、ただ一生懸命だった。
規則正しい寝息が聞こえる。
ずっとこうしてたいね、なんて独り言のように呟いて、そっと抱き寄せた。
兄が乙女です。最初のとこは丁度、トップ絵(これ)のイメージなんだろうと今思った。