日常お題 8.ビニール傘
時刻は19:00をまわったところ。
テレビがいいところなのにケータイが鳴った。
ディスプレイには「カイ兄」の文字。「もしもし?」
「もしもしレン君!!ちょっと頼みがあるんだけど」リンに頼めば?
そう言いたかったが、今日はミクと出掛けていてまだ帰ってきていない。「あのさー駅まで傘持ってきてくれない?」
それから二言、三言喋ると電話を切る。
別に断る理由はないからOKした。適当に上着を羽織って外へ出る。
特に用もないし、たまにはこんなのも悪くないだろう。
この時期の夜としてはあまり寒くなく、こうやって歩くには丁度いい。
家を出て、2つ目の角を曲がったところでふと気づく。「傘?」
さっき、カイ兄は電話で「傘を持ってきてほしい」と確かに言った。
しかし雨なんて降っていない。
だから持ってくるのを忘れた。いきなりの事だったとはいえ、我ながら慌てていたと思う。
確かにカイ兄は色んな所に行っているから、例えば山のロケで雨が降っていたのかもしれない。
今日はラジオを聴いていないからどうなのか分からないけれど。「ま、いっか」
別にそんなことは問題ないだろう。
このまま帰ろうか?ポケットに手を突っ込む。あれ、ケータイ忘れた。
連絡できないんじゃ、このまま引き返すわけにも行かない。
駅に着くと、電車が行ったばかりなのか沢山の人で賑わっていた。
少し辺りを見回すと…こういう時に派手な髪って便利。すぐにカイ兄は見つかった。「おーい、レンくーん!!」
向こうもそうだったのか、俺を見つけて子供みたいにぶんぶん手を振ってこっちに駆け寄ってきた。
「お疲れ、カイ兄。こっち雨なんか降ってないよ」
「いーのいーの。レン君、夕ご飯まだでしょ?どっかで食べていこうよ」カイ兄の思いもよらない提案に耳を疑う。
そんなことお構いなしにカイ兄は俺の腕を引っ張った。
カイ兄は忘年会でおいしかった、と言う居酒屋風の店でご飯をご馳走してくれた。
リン達はいいのかと聞くと、ミクとリンも夕ご飯を食べてくるように言ったらしい。「でも何で」
「たまにはレン君と男同士で話したくてさ」
「違う、傘…」「だって、そうでも言わないとレン君来ないんじゃないかって思ったから」
カイ兄は何故か恥ずかしそうに口をつぐんだ。
俺が言うのもなんだけど、何というか可愛らしい。「そんな事したことないじゃん、カイ兄が思っているより俺達、仲いいと思うよ?」
今度は嬉しそうに笑っていた。
それにしても表情がころころ変わる人だ。なんだか少しリンに似ている。
他愛もないことを喋って俺とカイ兄の夕ご飯は終わった。
店を出ると小雨が降っていてコンビニで結局ビニール傘を買ったのもいい思い出。