日常お題 4.定期入れ

 

こんにちは、ミクです。
え、お兄ちゃんの部屋の前で何してるのかって?
何って見れば分かるでしょ。がさ入れよ、がさ入れ。
お兄ちゃんに効果的な嫌がら…うんう、アプローチをするためには1週間に一度は必要よ。
きゃっ、私ったらやるぅ。

今、家には他に誰もいないけど、なるべく静かに扉を開けて中に入る。
ぱっと見はいつもと変わりない。
ちょっときょろきょろしてみる。
あ、写真立ての中身が違う。
近くの遊園地の写真だ…むむっ、いつの間に…
この間のクッキーはここのか。味はまあまあってとこだったわ。

もうちょっときょろきょろしてみる。

「あれっ」

部屋の端の冷蔵庫の前にぽつんと何か落ちている。
そろそろと近寄ると、それは定期入れだった。
多分、スタジオに行くときに使うんだろう。
アイスでも食べようとして落としのかな。
まぁ、そんなことはどうだっていい。
裏返すとテレビでよく見る、ICカードが入っていた。
私は迷わず中を開く。

…やっぱり

そこには私の親友でもあるリンちゃんの写真が入っていた。
まあ、付き合ってるみたいだし、当然と言えば当然か。
何これー!プリクラまで貼ってあるじゃない。
肩に手なんか回しちゃって!!むかつく!
リンちゃんには幸せになって欲しいけど、お兄ちゃんはもうちょっと自重したほうがいい。
理由なんてない。
私が来たときからそういうキャラだったじゃない。

プリクラはこの他にも何枚か貼ってあった。
上から順番にチェックしてみる。
ええっと…

リンちゃんとお兄ちゃんが写っているのが2枚。

リンちゃんとレン君とお兄ちゃんが写っているのが1枚。

マスターとメイコおねーちゃんが写っているのが1枚。

 

「何よ、これ…」

最後に、お兄ちゃんと私が写ったのが1枚。

 

あぁ、これ。私がまだ来たばっかりの時のだ。

マスターが、ミクが来た記念だから。なんて言わなければ絶対に撮らなかったと思う。
私は写真を撮るのが嫌いで、撮ることにかなりの反発をした。
半分あげるって言われたけど、断ったんだっけ。
お兄ちゃんはそんな私に、欲しかったらいつでも言ってね…って寂しそうな顔した。
それが1枚ずつ綺麗に切って、ケースの端に几帳面に入れられていた。
まだ取ってあったんだ。
私は今の今まで忘れていたのに。

 

──調子狂う。

 

「お兄ちゃん、定期入れ落ちてたよ」
「えー探してたんだよ。どこにあった?」

「冷蔵庫の前」

どこのかは言わない。
お兄ちゃんは他には言及のひとつもしなかった。

「1枚もらったから」
「えっ、何を?」

私は聞こえない振りをして、お兄ちゃんに背を向けた。
すぐに気付くだろうけど。

でも、気付いても何も言わないと思う。
お兄ちゃんのそんなところは嫌いじゃない。

 

 

inserted by FC2 system