ここにキスのお題 9.華奢な指
珍しく、読書に熱中してしまった。
いや、純文学とかそういうのじゃなくてアイスの本だけど。作り方は意外と簡単そうだ。
今度是非リンと一緒に作ってみたい。
みかんを入れたら、リン喜ぶだろうなぁ。しかし、このページの写真は何度見ても美味しそうだ。
うん、アイスは正義だ。間違いない。
ベッドの縁に腰掛けて、いけない、と思ってもついついまたページをめくってしまう。
ふと振り返ると、隣で一緒に見ていたリンはいつの間にか横になって目を瞑っていた。「リン」
呼んでも返事はない。
それもそうだ。内臓の体内時計はいつの間にか24:00を回っている。「ごめんね、リン…今日は相手してあげられなくて」
それにしても寝顔もかわいいと思う。
ふりふりのフリルとリボンがたっぷりついたピンクの寝巻きも似合っている。
こんなにかわいい恋人<<アイスになってしまっていた自分がつくづく情けない。
まぁ、この本を持ってきたのはリンだから、読まないのもアレだし、その辺は難しい。そっと柔らかい頬に手を触れる。
指先に熱が届くと吸い込まれるような弾力にどきりとした。
その脇をさらさらと流れる髪はとても滑らかだ。「にいにぃ」
引き込まれるようにその顔を眺めていると、その目が薄く開いた。
「ごめんねちゃった」
その顔がふにゃりと笑う。
「やっとりんのばん?」
口からため息のように漏れたそれはまだ寝ぼけているようだった。
細い腕が、小さなリンの手が、僕を探す。「うん、おまたせ」
その手に指先で触れるとリンはもう一度笑って、そのまま反応がなくなった。
やっぱり眠かったんだろう。
むにゃむにゃと口を動かしていたけど。
「あのさ…」
言いかけて、やっぱり止める。
朝起きたら直接伝えよう。
変わりに、絡めあった細い指先にキスを落とす。「おやすみ、リン」
僕も電気を消して、ベッドに潜り込む。
それから、もう規則正しい寝息を立てている身体を少し抱き寄せた。