ここにキスのお題 8.痩せた鎖骨

 

いつものように部屋を訪れると、いつになく軽装のカイトと目が合った。
寝るとき以外でマフラーを外している姿を見たのは久しぶりだ。

「にいに、どうしたの、その格好?」
「んーちょっと鍛えようかなって思って」

 

思い起こせば昨日の夜。
リンとミクは今日も仲良く連続ドラマに釘付けになっていた。
「きゃーリンちゃん、あれ、すてきー」
「うんうん、憧れるぅ」
それは白馬に乗った王子様がお姫様を抱き上げるシーン。
もしやこれはまたリクエストが…
この間みたいにキスくらいならすぐにしてあげられるけど、ちょっと今みたいのは…
気付かれないようにそそくさと部屋に戻って寝たふりをした。

 

「じゃー、もしかして期待していいの?」
気付いてた?
リンのこういうときのきらきらの目は脅威だ。
「う、将来的には…」
「やだー今!今してっ!!」
リンはカイトの首に手を回すと有無を言わせずぴょん、と抱きついた。
「ちょっ……リン…」
反射的に腕を出したものの、掴みきれずにバランスを崩す。
そのまま、よろよろと2、3歩後ろに下がり、壁に背中がぶつかる。
首にぶら下がった爪先立ちのリンは残念、と悪戯に笑った。

「にいに、やっぱ細いね」
しばらくじゃれていたリンはふといつもはマフラーで隠れている鎖骨に手を伸ばす。
「リンっ」
カイトはぎゅっと目を瞑る。むず痒さに身体がびくっと震えた。
勿論、リンはそれ知っていて、わざと執拗にそこに指を這わせている。
「はやくリンを抱っこできるようになってね」
「それは努力するけど……ちょっ、くすぐっ、くすぐったいよ、リン〜っ」
「じゃあこれは?」
そのまま指で触れていた部分を舐めるように口付ける。
「んんっ、無理ムリむりっ」
ちゅっ、と音を立てるとカイトは半ば涙目で首を振る。
「こっちはぁ?……きゃっ」

一瞬、視界が暗転した。
何が起きたかはいまいち分からなかったが、身体の自由が奪われたのは理解できた。

「リン…ふふっ、形勢逆転だね」
今日こそは許さないよ、と背中をぎゅっと抱きしめて動きを閉じ込める。
その腕はさっきとは打って変わって力強く、リンの力ではどうにも抜け出せない。
火事場の馬鹿力というやつなのだろうか。
セリフとは別に呼吸を整えるのにも余念がない。

「……やぁっ、離して!」

リンはかわいい悲鳴を上げる。
さて、これからどうしてあげようか、腕の中で身じろぐリンに視線を移した。

 

何故だ。項の時もだったけど、なぜカイトのほうなんだwしかもまたくすぐってるし、ただのデジャブ?

 

 

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