ここにキスのお題 7.密やかな項

 

日曜の昼下がり。
たまには肩を並べてだらだらしているのもいいと思う。
部屋に降り注ぐ暖かい日差しは最高の贅沢だ。

時刻はPM3:00 5分前。

カイトの視線を追って、時計を見たリンの目が輝きだす。
「おやつ食べる?」
「うんっ、リン、みかんアイス食べたい」
待ってました、と言わんばかりのリンは胸元でゆるく握った両手と上目遣いでおねだりモード。
そっと大きなリボンごと頭を撫でると首をかしげながら嬉しそうに目を細めた。

 

「えーっと…飲み物はジュースと炭酸、どっちがいい?」
部屋の片隅の背の低い冷蔵庫を開ける為にその場にしゃがみ込む。
がさがさと横になったペットボトルとお菓子を掻き分けながら聞くと、「ジュース」と声がした。
同時に背中に柔らかい感覚。
振り返ると、リンが枝垂れかかる様に細い腕を首に回しているのが見えた。
「にいにっ」
自分を何度も呼びながら、こんな風に甘えてくるリンが可愛くて仕方がない。
なに?、と聞くとはにかんだ笑顔が覗く。

「おんぶして」
「ん、いいよ」

とりあえずおやつは後回し。冷蔵庫を閉めて、背中のリンごと立ち上がる。
わ、と小さく声を上げたリンがぎゅっとしがみついてきて、思わずドキッとした。


窓を開けて少し乗り出すと、冷たい風が頬をかすめる。
「気持ちいいなぁ…あとでそこの公園まで行こうか?」
うんっ、と元気な声が聞こえてくると思ったけど…返事がない。
「リン?」
声をかけると、何だか予想外のふわふわした返事が返ってきた。

「にいに、何かいい匂いする…」

そういうと、ぼんやりした口調のリンは頭を預けていた襟元の青い髪を指に絡めた。
「ほら、ここだぁ」
「ちょっと、くすぐったいって」
リンの鼻先が項に触れる。
くんくんと鼻を鳴らし始めると、かなりむず痒い。
「リン…ってば、もうムリ」
「もうちょっと」
ぽんぽん、とリンの腕をたたく。
「じゃあ最後」
リンが一度大きく息を吸い込むとカイトはぶるっと小さく震えた。
それから、鼻先とは別の暖かいものがちゅっと音を立てて触れ、離れていった。

「ちょっ……」
慌てて振り返ろうとするとリンはそれを牽制するようにマフラーを引っ張る。

「にいに、おやつ!おやつは!?」
「え?は、はひっ」

 

はやくはやく、と急かす声はいつもと変わらない。
でも、リンのマフラーを握る手はほんのりピンクに染まっている。
まくし立てられるままに慌てて冷蔵庫へと回れ右した。

「公園も行こうね、にいに」
「うん」

その手をぎゅっと握るとため息が零れた。

 

 

おんぶしながら後ろの顔が見れるか首を回してたら痛くなった。
大好きなひとのにおいっていいですよね。

 

inserted by FC2 system