ここにキスのお題 6.甘い唇
「きゃー今の見た、リンちゃん」
「すてきーどーしよー!!」リビングで黄色の声を上げるふたりは今流行のドラマを見ている真っ最中。
毎週この時間は、テレビの前の一番いい席を陣取っている。
レンは早々に部屋に引き上げてしまったが、カイトは風呂上りのアイスを楽しむためにここに居る。
ドラマの内容は特に興味ないけれど、楽しそうなリンを見ているのは幸せな時間だ。
「じゃ、私先に寝るね」
「おやすみ、ミクちゃん」
「あ、ミクっ」
「おやすみ〜」
ドラマが終わると早々に、ミクは立ち上がった。
それから、隣の台所のシンクにごとりとコーヒーカップを置き、逃げるように部屋に走っていった。いつもこの手に食わされる。
「…はぁ、じゃあリンのも一緒に片付けるから先に……」
自分とリンのコップを持って立ち上がろうとすると、リンがぎゅっと裾を引っ張った。
また抱っこのおねだりかな?そんなことを考える。
「ねぇ、にいに………さっきの、して?」
「さっきの??」記憶の糸を手繰り寄せる。
先ほどリンたちが見ていたドラマはアオイハルがテーマの、ベタな恋愛話。
今日はヒロインから主人公への告白のシーンがあった。
それから……ふたりの声援があがったのはこのときだった。「えっ、あれ?」
「だめ…?」
そんな潤んだ瞳で上目遣いに言われると断ることが出来ない。
カイトは両手のコップを床に戻す。
「じゃ……何か恥ずかしいけど……」
ドラマと同じように指先でリンの顎を引き上げると、こちらを向いた唇にゆっくりと触れた。
「おかしいなぁ…さっきはかなりときめいたのに……」
開口一番。
それは僕にときめいていないということでしょうか?何だか泣けてきた。
カイトの様子にリンは慌てて、首を振る。
「だって、にいにの口、甘いし何か雰囲気でないから…」
「しょうがないよ、アイス食べてたんだもん」
「そうだけど…」
今度からチョコミントに…いやいや、そういう問題なんだろうか…
リンはまだちっょと不満そうにぶつぶつ何か言っている。
「じゃあ、アイスの味、消せるくらいいっぱいキスしようか?」
それから、さっきとは逆の角度でリンの口を塞いでみる。
リンは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「んっ……にい、」
気付かない振りをして、次はちゅっと、音を立てたり、軽く吸ってみたり。
ため息のように漏れる声に、背中を抱き寄せる腕に、甘さはだんだん深くなっていく。
きつく抱きしめたリンの身体はいつもより熱く感じた。
一体どれ位くらいこうしてただろう……唇を離すと、ふたりの間に銀糸が繋がった。
「ごめん、にいに…」
「え…?」
背中のほうで声がした。腕の力を緩めると、潤んだ瞳のリンが顔を上げた。
「ドラマより、にいにとの現実のほうがいいなんて当たり前だね…」
背中を優しく抱き寄せる右手も、指を絡めあう左手も、全部好き。
そう言って、いつもの様に抱っこをねだる。「……そっか、ありがとう」
もう一度、今度は優しくキスするとリンは、もう甘くないね、と笑った。
顎をくん、とあげてちゅうするのは個人的に意外にいただけないなぁ…と言う話