ここにキスのお題 3.涙の瞼

 

「…ミク……」

気付いたのはカイトの口から漏れた言葉だった。

 

カイトの部屋でお昼寝ももう恒例行事になってきた。
忙しいんだから仕方ないよね…ふたりでいられるだけで満足だから。

そんな矢先のことだった。
自分を抱きしめて眠るその人は、確かに親友の名前を口にした。
「ミクちゃんの夢、見てるのかな…?」

いつも夢の中でも一緒だった。
きっと、お互いそうだと信じてた。

「にいに……」

不意に視界が歪む。
声は何とか抑えたものの、リンは瞳からあふれ出すそれを止められないでいた。

滴の落ちたその先、カイトのマフラーが点々と色を変える。
それが増えるにつれ、カイトの声のトーンが徐々に変化していく。
低く、低く。
「にいに?」
リンの思っているような夢ではない、それに気付くのにそう時間はかからなかった。
「うーんうーん……っ」
うめき声に、ふと表情を確認する。
カイトはTシャツの胸の辺りをぎゅっと掴んでいて、顔色はどこか青白い。
「……っ」
「ちっょと、にいに!大丈夫?にいに!!」

 


ゆさゆさと軽く動かすと、その人がはっと目を開く。
「リンっ」
カイトは自分の名前を呼んだ。
「すごくうなされてたけど…、大丈夫?」
「大丈夫じゃない…あと5秒遅かったら……本当に助かったよ」
まだ息が上がったままだ。
そんなに怖い夢だったんだろうか?
カイトには申し訳ないと思いながらも、何だかとても安心する。
お互いの名前を呼び合って抱きしめあうと、安堵の息が零れた。

 

「どんな夢だったの?」

ふと、聞いてみたくなった。
目が合うと、カイトの表情が曇る。
「……えと」
「あ、別に嫌ならいいよ」
それは恐怖より、心配と困惑に満ちた表情だった。

「…リン、泣いてた?」

口から零れたのは、質問への回答ではなかった。
リンは思い出したように目じりに手をあてる。
涙はもう乾いていたが、少しひりひりする。
もしかしたらひどい顔をしているかもしれない。
「あ、いいの。誤解だったから」
「えっ、えっ?どういうこと??」
カイトの周りには「?」がいっぱい飛んでいる。
今更恥ずかしいけど、カイトを困らせたままいる訳にはいかずポツリと口を開く。

「寝言……ミクちゃんの名前呼んでたから…」

 

 

「ごめん、変な心配させちゃって」
カイトはリンの頬を覆うように両手で包み込む。
「ちょっと熱持っちゃってるね」
「だいじょうぶ…」
考えてみればよくある話だったと少し笑えた。

「じゃあ、目、腫れないようにおまじない」
ちょっと、目を瞑ってよ、とリンの目を覆う。
それから、瞼に、それから、頬、唇と順に口付けた。

「にいに、寒っ」
「…やっぱり?」

カイトは今の感情を誤魔化すようにリンをぎゅっと抱きしめる。

「でも、ありがとう」
いろんな意味で頬が熱くなるのを感じた。

 

何か、気付いたら寝起き話ばっかりですねw
リンたんに泣いてもらうのにかなり苦労しました。アップまで1週間以上悩んでこれかよw

 

 

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