ここにキスのお題 10.広い背中
※事後注意。

 

薄く目を開いて目を凝らすと、すやすやと眠るその人が映る。
もう何回も肌を重ねたけど、終わった後のこの気だるさにはまだ慣れない。

そっと手を伸ばして、頬に落ちた青い髪に触れるとカイトがくすぐったそうに目を擦った。
「ん、リン…」
辺りは暗くて、カイトの輪郭だけがうっすらと動いて見えた。
すらっとしたシルエットは少し頼りないけど、抱きしめてくれる時はいつも大きくて優しいと思う。
「起こしちゃった?」
カイトは小さく首を振った。
「リン、もしかしてどこか痛い?」
「大丈夫、ちょっとだるいだけ」
リンの声はいつもと同じトーンだったけど、それがかえって辛かった。

「お水持ってくるからちょっと待ってて…」

カイトはリンの頭をそっと撫でると、身体を起こす。ベッドがぎし、と音を立てる。
部屋の片隅の背の低い冷蔵庫を開けるとオレンジの光が周辺を照らした。

ミネラルウォーターをコップに注いで、急いで戻る。
枕元のスタンドを点けるとリンの表情がようやく伺えた。
「少し起きられる?」
やはり、声とは違う、少し疲れたような、力が抜けているような感じだ。
小さな身体の胸元や首筋には先ほど付けた赤い印がいくつも見える。
ゆるゆると起き上がったリンにコップを渡すと、すぐにそれを飲み干した。

「ありがと、だいぶ落ち着いた」
そう言うと、カイトにもたれ掛かっていたリンはいつものように抱っこをせがむ。
「ほんとに大丈夫?」
いつもより、大事に、大事に抱きしめる。
「うん、心配してくれてありがとう」

軽くキスして、そのままベッドに横たわう。
髪を優しくかき回されて、指で唇に触れて、もう一度ぎゅっと抱きしめあった。
「おやすみ、にいに」
「おやすみ、リン」

「ね、もういっかい…」

 

 

あんなに強く抱き合ったはずなのに、目が覚めるとカイトとは背中合わせのようだった。
時刻は分からないけど、窓の外はもう完全な暗闇ではない。
背中合わせのその人からはまだ規則正しい寝息がきこえる。
小さく伸びをすると二の腕に赤い印がいくつか増えているのに気付いた。
「見えちゃうって言ってるのに…ばか」
ごろんと身体の向きを変えてカイトの背中に呟く。
その背中にはリンの残した真新しい爪痕がいくつも残っていた。
「……」
ひとつくらい増えたっていいよね?
リンはまだ白い部分に噛み付くようにキスを落とす。

 

「大好き」

そのままその背中に頬を埋めて、もう一度目を閉じた。

 

 

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