ここにキスのお題 1.伸びた前髪

 

何だかちょっと違うと思ったら、そうだ、前髪だ。
こんな日中に前髪を下ろしているなんて珍しいな…

「リン、どうしたの、髪留め…?」
「めーねーちゃんに前髪揃えて貰うんだ」
うちのメイコさんは手先がとても器用だ。
いや、料理はあまり期待しないであげて欲しい。

「どんな髪型にするの?」
「思い切ってパッツンにしようと思ってるんだ」

リンは前髪に手を伸ばす。
「ピンで留めてるけどやっぱ邪魔だもんね」
下向いたときとか、風吹いたときとか…指折り数えている。
「それに今年はパッツンが流行るってテレビで……んっ、ちょっ、にいにっ」
僕は前髪に伸ばされたほうのリンの指と絡めるように髪を掬う。
そしてそのまま唇を寄せた。

「ごめん、なんか惜しくなっちゃって」
「……ばかっ」

驚いて目を見開いたリンの頬が一瞬に朱に染まる。
我ながら今のは恥ずかしかったかもしれない。
きっと僕もつられて紅くなっていた。
「何だか、次に会うのが楽しみだね」
「うんっっ」
リンは大きくと頷くと隣のマスターとメイコさんの家のほうに走っていった。

 

そして…

「あれっリン、髪…?」
「そろえるだけにしたの。なんかもったいなくなっちゃって」
にいにのせいだからね、と見慣れた髪型のリンはぷうっとほおを膨らめた。
リンには悪いけど、何だかほっとした。
「ねー、どっかお出かけ行こうよ!」
そう言って僕の腕を引くと、リンは新しい髪留めをねだった。

 

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