昨日と違う朝
「おはよう…」
目を擦りながら現れたのはリン。
トーストを今まさに頬張ろうとしていたカイトはその手を止めざるを得なかった。「おはよう、リンちゃん。早起きだね?」
「それ、リンのもある?」
「…用意すれば」
まだ起動したばかりのリンは首をかしげた。
カイトにとってこの時間、他の誰かが来ることは確率の低いことだった。
何故ならミクは朝ごはんを食べると気持ちが悪くなる体質だからだ。
マスターとメイコとは時間が合わないし。「レン君は?」
「まだ寝てる」「じゃあ用意するから少し待ってて」
「うんっ」籠の上の食パンにバターを塗り、トースターのタイマーを2分にあわせる。
その間に冷蔵庫から取り出した卵とウィンナーを慣れた手つきで火にかける。あっという間にリンの分のそれは完成した。
「はい、リンちゃん」
「すごーい」
小さな白いお皿を目の前に目をきらきら輝かせた。「…いつも朝ごはんひとりなの?」
「他に食べる人がいないからね」
ミクは食べない、と言う話をすると、リンは同じボーカロイドなのに、と不思議がった。
「じゃあ、今日からリンといっしょね。あっ、明日はレンも呼ぼうっと」
「それは嬉しいなぁ。みんなで食べるとおいしいからね」「うん、約束」
そういうと、リンはにっこりと微笑んで左手の小指を差し出した。
カイトもフォークを置いてリンの指に自分のそれ絡める。
それから出掛ける時間まで他愛ない話をした。
今までになく気持ちのいい朝の出来事だった。