バイバイのしるし

 

「…じゃあ、そろそろ部屋戻るね」
壁の時計は丁度夜の10時を過ぎた頃。

リンはおなかの辺で繋いでいたカイトの手をそっと解く。
明日も会えると分かっていても、毎日のバイバイは少し寂しいものだ。
扉の前で立ち止まって最後にもう一度抱きしめ合う。

「また明日ね」
「うん、あした」
カイトは自分の胸元で顔を上げたリンの両頬をむにっと包む。
指先を伝う温度だけで表情が伺えた。
その顔を確認すると、思い描いていた通りで胸がいっぱいになる。
「リン、大好きだよ」
そう言って、額から鼻先へ探るように点々とキスを落とす。
リンはふにゃりと笑って、またカイトの胸元に頬を寄せた。
その繰り返し。
なかなか帰れない、そんな時間も楽しくて。
背中に回された腕が温かい。
目を閉じると、幸せにため息が漏れる。
胸元で揺れる細い髪を上から下へ撫でると、腕の中のリンは小さく身じろいだ。
「にいに」
「ん?」
手の動きが止まり、音が消える。
刹那、リンはすばやく伸び上がるとカイトの唇に触れた。

「リ、リンっ」
「えへっ、びっくりしたー?」
頬が熱い。
それからにっこり笑ったリンと目が合った。
カイトはまだ高鳴った鼓動を抑えるのに必死だった。

 

「じゃあ今度は僕からね」

 

バイバイ、またあした

 


 

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