BIRTHDAY EVE

 

「ごめん、リン。本当にごめんっっ」
「…いいよ、もう」

それはリンとレン、ふたりの誕生日の前日の夜のことだった。
年末忙しい、急な仕事が入る、というのはカイトに限らずよくあることだ。
前から一緒に出かける予定を立てて、休暇届を出していたにもかかわらず、急な依頼が入りそうもいかなくなった。
しかも、リンと何度目か分からない明日の話をしていたときだったから余計に気まずい。

リンは口ではそう言ったものの、残念とも怒っているともどっちとも言えない表情をしていた。
いつもはピンで留められた前髪が少し寂しげに揺れる。
「リン、ごめん」
「にいにの所為じゃないもん、仕方ないよ」
こらえきれずに膨らんだ頬はかわいらしいけれど、ただ頭を下げることしか出来なかった。

 

「にいに、どこ行くの?」
「別にどこってことはないけど…」

ふわふわのフェイクファーのついた赤いコートを羽織ったリンの手を手袋越しに繋ぐ。
家の近くの公園を抜けて、駅、コンビニ、イルミネーションで華やかに彩られた目抜き通りを歩く。
ふと顔を上げると暗闇にいつもより白い息が舞った。

何となく…会話は弾まない。
散歩に行こうとは言ったけれど、明日の代わりに、なんてつもりはない。
でも、これでリンが許してくれたら…そんな淡い期待はしていたかもしれない。

結局、30分もしないうちに近所の公園まで戻ってきてしまった。
こんなときになんて言葉を掛ければいいのか。ごめんね?それとも…?
何を言っても言い訳に聞こえるだろうから、さっきから、言い出そうとしては止め。
そんなカイトをリンは怪訝そうに伺っている。
リンの握りしめてくるわずかな感触。それだけが救いだった。

公園の真ん中の大きな時計の示す時刻は大体22:00。
こんなに遅い時間に来たのは始めてかもしれない。
ぼんやりと薄暗い電灯の下を通り過ぎると、リンの息が冷たい空気に混じるのが見えた。
建物の合間に星空が広がる。思わず見上げると、リンの足が止まった。

「にいに、今の見た!?」
「う、うん。はじめてみた…」
半歩前を進んでいたリンは目をきらきら輝かせて振り向いた。
一筋の流れ星。
「あ、また!!どこに行くのかなー?」
カイトの肩に手を置いてぴょんぴょんはねるリンは今度は後方の空を指差す。
その指先を追うように視線で辿ると、リンはそれを見届けてからポツリと声を零した。

「にいに、あのね、あたし、最初はがっかりしたんだけど…」
恐る恐るリンのほうに顔を向けると、リンは意外にもその大きな目を細めてぎゅっとしがみついてきた。

「誕生日じゃなくたって、にいにと一緒に入れるのが一番幸せだからっ」

「リン…」
重なった二つの影がコンクリートの上で揺れる。
カイトはしばらくただただ抱きしめるのが精一杯だったが、やがてリンの耳元にゆっくり、丁寧に音を運んだ。
リンもよく知っている誕生日を祝う歌。
せめて世界で一番早いおめでとうを。そして。

「ありがとう、リン」

リンは一瞬ぽかんとした顔をして、何か言おうとしたが、その前に唇をふさぐ。
薄く目を開くと遠くに揺れる星達が祝福をしてくれているように見えた。

 

今年も君が世界で一番幸せでありますように──

 

あああ。何故か幸せな誕生日が思いつかなかったという失態。題名がイブなのに間に合わなかったし…orz
ありがちな感じでラブラブなのがいいね、超好物です。
ちなみに、DEENの(だいたい)同題名曲をイメージしていたりいなかったり。

 

inserted by FC2 system