レン君の受難 外伝 〜某RPGにて〜

 

○月×日 レン LV.1

俺は駆け出しの戦士レン。

今日、俺とリンはある冒険者からついに雇われた。
リンは俺の双子の妹で盗賊をやっている。
盗賊というと聞こえは悪いが現代風に言うと便利屋さん…とかではないだろうか。
名簿に登録してから約半月。一緒に雇われたのもかなり運がよかったと思う。
雇い主の名前はミク(職業不明)。
同じく雇われた僧侶カイトと4人パーティーを組み…

「……あの、もう一回言ってもらえます?」
「だ・か・ら!世界最強の葱を探しにいくの」

ミクは嬉しそうに葱色のツインテールを振った。
おかしい、魔物討伐やお宝探し。そんなゲームみたいな職を夢見て入った世界なのに……

 

△月○日 レン LV.3

ミクに雇われてから2日が経った。今の任務は世界の珍しい葱探し。
と言っても、まだまだレベルが低いので町の外に葱の種を捜しに行く程度だ。

「そんな事したら駄目でしょう」
「いーじゃない、ちょっとくらい」

ふと声のほうに目を向けると、リンとカイトがなにやら喧嘩をしていた。
どうやら倒した魔物の懐を探っていたリンをカイトが咎めていたらしい。
ミクは一心不乱に藪を掻き分けて葱を探していてそれ所ではなさそうだ。

「いい?もうやったら駄目だよ」
「うるさいなーわたし盗賊だよ?それにレアなアイテム持ってるかもしれないじゃん」
「だめです!」
「いいの!!」

ふたりの話は平行線を辿っている。
ぷくっとほっぺを膨らませたリンはつまらなそうにカイトを小突いている。
ミクはまったく興味がなさそうだ(というか眼中になし)。
えっと…俺は?

 

☆月□日 レン LV.6

久しぶりに戦闘らしい戦闘をした。
ミクはもっぱら葱を探し、僕ら3人は用心棒をしているというイメージだ。
報酬は幾らか貰えるし、目的はともかく段々描いているイメージに近づいていることは感じている。

…とここ半月を振り返りつつ、俺のターン。剣の扱いも慣れたものだ。
自分で言うのもなんだが見事に一撃入れて戦闘は終了した。

「って、おい」

リンは眠っている (状態:ねむり)

ぽすぽす、と肩を叩いてみるものの応答は無い。
「魔法が効きやすい体質だと思ってたけど…これ程とは…」
「どういうこと?」
「うん、例えばお香なんかで眠くなるのとは違って、魔法はもっと生命の根幹のエネルギーの動きを止めて眠りを誘うんだけど、リンは感受性が人より強いからそういう外からの影響を受けやすいんだ。だから回復魔法も効き易いし、こういう精神に直接働きかける魔法に弱いんだ。それに…」
「10文字程度でお願いします」
俺が眠くなりそうだ。カイトはなんか変なところ理屈っぽい。
「まぁ、体質だよね…レン、リンをおんぶするから手を貸して?」
「大丈夫かよ?」
カイトはにっこり笑うと俺の手を借りてリンを背負う。

意外と余裕なのが何かむかついた。

 

▽月□日 レン LV.7

件(くだん)の一件から、リンとカイトは何だか仲がよい。

--

「……んっ、」
「リン、気付いた?」

リンは俺を見下ろしながら頭にいっぱい「?」を浮かべている。
自分がカイトの背中にいることが気付くのにはもう少しタイムラグがあったようだ。
「あ、ごめん、降りるよぅ」
「いいんだよ、気にしないで?もうすぐ街だし」
「重いでしょ?いいってば」
「まだ身体が魔法に慣れていないんだから、もうちっょと安静にしていたほうがいいよ」

恥ずかしさからなのか、リンは柄にも無く頬を赤く染めてその背中にぎゅっとしがみついていた。

--

「ねーカイト?」

「ん、何」
「かわいいお花見つけたの、ほら」

なんてどうでもいい会話をしながら、手を繋いでいる。
その行為に大した意味なんかないだろうけど、葱を探すミク、仲のよいふたり。
ちょっと前まではいつもリンと一緒だったのに…突きつけられる現実にため息をついた。

 

○月×日 レン LV.9

「ふぅ」

イケメン(俺)と汗が似合うぜ。とあほな事を考えながら戦闘を終える。
大分モンスターが強くなったな、もっとしっかりレベルを上げないと。
持っていたハンカチで傷口を縛ると、赤黒い血がにじんだ。

「大丈夫、レン?」
リンが心配そうに覗き込んできた。
「これくらい…リンは大丈夫……って…」
俺はリンを見て唖然とする。
「リン無傷じゃん」
「うん、カイトが回復魔法かけてくれるし」
「ちょっ……カイト、俺には?」

「ごめん、もうMP残ってない」

リンの後ろからひょっこり現れたカイトは悪びれもせずにそういった。
それから薬草を投げて寄越した。

 

 

□月△日 レン LV.12

「ねぇ、レン」

珍しくカイトが話しかけてきた。
いや、別にカイトは悪いやつじゃない。
かなりリン贔屓なところを除いたら、むしろ親友になれる。

「なに?」

随分深刻そうな表情だ。こんなカイトを見るのは初めてで思わず唾を飲む。

「リンって、どんなものあげたら喜ぶかな」

 

うん、全俺が泣いた。

 

 

△月▽日 レン LV.15

今日は野宿だ。
みんな忘れているかもしれないが、俺たちの旅の目的は「世界最強の葱」探しだ。
武器的な意味なのか、味的な意味なのかよく分からないが、俺たちはそれを目指して旅をしてきた。
いよいよ、その葱が生えているという山の麓までたどり着いた。
短いようで長かったのは、何故だろう?

今日は着いたところで日が暮れた。
近くに町も無いので、こういうことになっている。

3時間交代で見張りをしているのだが、今までの目的が目的だっただけに、野宿は今日が初めてだ。
ゴツゴツした地面に、遠くには魔物の声。
俺は中々眠れずに、目を開いては浅い眠りにつく、を繰りり返していた。
ごろんと寝返りを打つ。すると焚き火の向こうに信じられない光景が広がっていた。

 

妹のリンが、カイトと口付けを交わしていた。

本来なら飛び起きて文句のひとつでも言いたいところだが、こんなことは初めてで身体が動かない。
心臓がきゅう、と締め付けられる。
俺があたふたしている間もふたりの触れ合うそれは離れることは無かった。
「…んっ」
「リン、好きだよ」
甘ったるい口調で、カイトはリンの頬に触れながら顔を覗き込む。
カイトの膝の上に座ったリンは恥ずかしそうに俯いて、リンも好き、と小さな声で呟いた。
いや、そういうときに限って、風の音も無く静かなのは仕様ですか?
俺も何故か耳をそばだてている。
聞きたくない、認めたくないが、まだ緊張状態の身体をリラックスさせることすら出来ない。
と、カイトがふと振り向く。俺が起きている事に気付いたのか、怪しげな表情を浮かべて、リンにさらに甘い言葉を掛けた。
こんなリンの幸せそうな表情はじめてみた…

「ね、カイト…?」

不意にリンがカイトのマフラーを引っ張った。
リンのおねだりもあってか、その後もふたりは口付けを繰り返し、俺はもちろん一睡も出来なかった。

 

 

長さ的に拍手お礼かなーと思ってかいてましたが、けっきょく拍手お礼という場所柄上、
あまり更新できずここに完結したのよ、という淡い恋物語。

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